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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)13227号 判決

原告

利國公之

ほか一名

被告

中村豪志

主文

一  被告は、原告利國公之に対し、金一四二一万五三八一円及びうち金一二二一万五三八一円に対する平成八年八月四日から、うち金二〇〇万円に対する平成一〇年一月九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告利國裕子に対し、金一一一三万五三八一円及びこれに対する平成八年八月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告利國公之に対し、金四六一一万六二六一円及びうち金三九一一万六二六一円に対する平成八年八月四日から、うち金七〇〇万円に対する平成一〇年一月九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告利國裕子に対し、金三四七八万〇一八五円及びこれに対する平成八年八月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  1、2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(本件交通事故)

原告ら夫婦の子である亡利國浄香(昭和五四年五月二八日生)(以下「亡浄香」という。)は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、死亡した。

(一)  日時 平成八年七月一七日午後五時ころ

(二)  場所 大阪府池田市豊島南一丁目三番二一号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三)  加害車両 被告運転の原動機付自転車

(四)  態様 亡浄香が同乗していた加害車両が国道一七一号線を北東から南西へ向けて進行するため、本件交差点を直進中、折から国道一七六号線(中国自動車道)を南東から北西に向けて進行するため、本件交差点へ直進進入した普通貨物自動車に衝突した。

2(責任)

被告は、本件事故当時、亡浄香を加害車両の後部に同乗させ、加害車両を運転して本件交差点に差し掛かり、これを直進しようとしたところ、このとき既に進路前方の交通信号機は赤色表示をしていたのであるから、直ちに停止すべき注意義務があるのにこれを怠り、右信号を無視して本件交差点に、原動機付自転車の制限速度を超える時速約五〇キロメートルで進入した過失により、走行中の前記普通貨物自動車に衝突し、亡浄香を加害車両後部に同乗させたまま加害車両を転倒させた。

3(亡浄香の死亡)

亡浄香は、本件事故により、頭部を強打し、脳挫傷等の傷害を受け、平成八年七月一七日から同年八月三日までの一八日間入院治療を受けたが、平成八年八月三日死亡した。

4(損害)

(一)  亡浄香

(1) 入院雑費 二万七〇〇〇円

1500円×18日

(2) 付添費 一一万七〇〇〇円

6500円×18日

(3) 逸失利益 四四四一万六三七一円

本件事故当時、亡浄香は、一七歳の健康な女子であり、本件事故に遭わなければ、少なくとも短期大学を卒業し、その後六七歳まで稼働し、この間短期大学を卒業した二〇ないし二四歳の女子労働者の平均給与程度の収入は得られたはずである。

右収入のうち生活費等に要する費用は三割とするのが相当である。

288万8000円×(1-0.3)×21.9709=4441万6371円

(4) 慰謝料 二五〇〇万円

亡浄香は死亡時一七歳と非常に若く、短期大学入学、就職、結婚のすべてを本件事故により失ったものであり、亡浄香の精神的苦痛は計り知れない。

右状況を考慮すると、亡浄香の精神的苦痛に対する慰謝料は二五〇〇万円を下らない。

(二)  原告利國公之

(1) 交通費 二七万四六八〇円

原告ら夫婦は、亡浄香の入院中の一八日間、亡浄香の付添のため、原告らの自宅(肩書住所地)から亡浄香の入院先である大阪府立千里救命救急センター(大阪府吹田市津雲台一丁目一番D五)まで、タクシー及び電車(自宅から阪急石橋駅までタクシー、阪急石橋駅から阪急南千里駅まで阪急電車)で通院しており、その交通費として二七万四六八〇円を要した。

(2) 葬祭費 四〇六万一三九六円

(3) 弁護士費用 七〇〇万円

(三)  相続

原告らは、亡浄香の両親であり、亡浄香の被告に対する前記損害賠償請求権を法定相続分の割合に応じて、相続した。

よって、原告らは被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告利國公之につき金四六一一万六二六一円(一円未満切り捨て)及び右のうち弁護士費用を除く金三九一一万六二六一円に対する亡浄香の死亡の日の翌日である平成八年八月四日から、弁護士費用金七〇〇万円に対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年一月九日から、原告利國裕子につき金三四七八万〇一八五円(一円未満切り捨て)及びこれに対する亡浄香の死亡の日の翌日である平成八年八月四日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、被告に過失のあることは認める。

3  同3のうち、亡浄香が死亡したことは認める。

4  同4の損害額は争う。

三  抗弁

1(過失相殺)

(一)  本件事故は、被告及び亡浄香を含む七名のグルーブで、四台の原動機付自転車のうち三台は二人乗りの状態で、原動機付自転車によるドライブを全員で楽しむために走行中に発生したものである。

(二)  原動機付自転車による二人乗りは禁じられており、また、原動機付自転車に乗る場合はヘルメットの着用が義務づけられているにもかかわらず、亡浄香はこれを着用していない。

(三)  右の諸事情は、被害者側の過失として相当程度損害額を減額すべき事情であり、損害額の三割を過失相殺すべきである。

2(損害填補)

自賠責保険金三〇一〇万三六一〇円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)のうち、原動機付自転車によるドライブを全員で楽しむために走行中の事故であることは否認し、その余は認める。

亡浄香は、自宅に帰る途中に、別れたばかりの被告らと偶々再会し、話の成り行き上自宅に帰るために被告の原動機付自転車に乗せてもらったにすぎない。

同1(二)は認める。

同1(三)は争う。

確かに亡浄香は、原動機付自転車に二人乗りをし、また、ヘルメットも着用していなかったが、被告が信号無視や左右の安全確認の懈怠、速度制限違反等の重大な義務違反を含んだ暴走行為をしなければ、このような事故にはならなかったのである。

しかも、亡浄香としては、到底このような暴走行為は予想しておらず、暴走行為を了承して加害車両に同乗したわけでもない。

しかも、亡浄香としては、被告が暴走行為を始めた後は、加害車両から降りたくても降りられない状態であった。

したがって、このような暴走行為によって起こった本件事故の損害額の算定に当たって、亡浄香の過失は斟酌すべきでない。

2  同2は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(本件交通事故)は当事者間に争いがない。

二  請求原因2(責任)のうち、被告に過失があることは当事者間に争いがない。

三  請求原因3(亡浄香の死亡)

亡浄香が死亡したことは当事者間に争いがなく、証拠(甲二、三)によれば、その余の事実を認めることができる。

四  請求原因4(損害)

1  亡浄香

(一)  入院雑費 二万三四〇〇円

入院雑費は、一日一三〇〇円と認めるのが相当であるから、その一八日分で二万三四〇〇円となる。

(二)  付添費 九万九〇〇〇円

付添費は、一日五五〇〇円と認めるのが相当であるから、その一八日分で九万九〇〇〇円となる。

(三)  逸失利益 三八〇七万一三四八円

証拠(甲四、九、一〇)によれば、亡浄香は、死亡当時満一七歳の高校二年生の女子であり、本件事故がなければ、短期大学を卒業し、満二〇歳から六七歳まで就労可能であり、その間年収二八八万八〇〇〇円(平成六年度賃金センサスによる。)の収入を得ることができたものと認めることができるから、生活費控除率を四割として、新ホフマン式計算法により逸失利益の現価を計算すると、次の計算式のとおり三八〇七万一三四八円(一円未満切り捨て。以下同じ。)となる。

288万8000円×(1-0.4)×21.971≒3807万1348円

(四)  慰謝料 二〇〇〇万円

本件における諸般の事情を考慮すると、亡浄香の死亡慰謝料は、二〇〇〇万円と認めるのが相当である。

(五)  以上合計五八一九万三七四八円となる。

2  原告利國公之

(一)  交通費

近親者の入院付添のための交通費は、特段の事情のない限り、前記認定の付添費に含まれるものであり、本件においては、右特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、交通費の請求は理由がない。

(二)  葬祭費 一二〇万円

証拠(甲五の1ないし3の各1・2、4ないし5、6および7の各1・2、8ないし9、10の1ないし4、11の1・2、12の1ないし3、原告利國公之本人)によれば、原告利國公之が浄源寺の住職であることから、亡浄香の葬儀は一般のものと比較すると高額な費用を要するものとなっているのであるが、交通事故による死亡に関し請求し得る葬儀費用は、社会通念上相当な範囲に限られるものであって、亡浄香の年齢等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用は一二〇万円と認めるのが相当である。

3  相続

証拠(甲四)によれば、原告らは亡浄香の両親であることが認められるから、亡浄香の死亡により、原告らが亡浄香の損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続したものである。

五  抗弁1(過失相殺)

1  次の事実は当事者間に争いがない。

(一)  本件事故は、被告及び亡浄香を含む七名のグループで、四台の原動機付自転車のうち三台は二人乗りの状態で、走行中に発生したものである。

(二)  原動機付自転車による二人乗りは禁じられており、また、原動機付自転車に乗る場合はヘルメットの着用が義務づけられているにもかかわらず、亡浄香はこれを着用していなかった。

2  証拠(甲六の12ないし14、七の1ないし6、8ないし14、18、31、32)によれば、次の事実が認められる。

(一)  亡浄香は、友人二名とともに、被告ら四名と一緒にカラオケボックスで遊んだ後、友人二名と帰路についたが、その途中たまたま遭遇した被告ら四名から送ると言われて、加害車両の後部に乗ることとなった。

(二)  被告ら七名の乗った原動機付自転車四台が走行している際、警察官から定員外乗車、ヘルメット不着用を発見され、停止を求められたのに、これを無視して、逃走し、速度違反のうえ、対面信号機の赤色表示を無視して交差点に進入して、信号機の青色標示に従って進行してきた普通貨物自動車と衝突した。

3  右の事実からすると、亡浄香にも、二人乗りが禁じられている原動機付自転車に、ヘルメットを着用することなく乗車した点に過失が認められると言うべきであり、前記損害額からその一割を過失相殺するのが相当である。

なお、被告が警察官に発見され、逃走し、本件事故に遭遇するまでについては、亡浄香がこれを慫慂し、あるいはこれを承認したことを窺わせる証拠はなく、右の点については過失相殺すべき事情とはいえない。

そこで前記亡浄香の損害額五八一九万三七四八円からその一割を控除すると、五二三七万四三七三円となる。

また、原告利國公之の損害額一二〇万円からその一割を控除すると、一〇八万円となる。

六  抗弁2(損害填補)(三〇一〇万三六一〇円)は当事者間に争いがない。

そこで、右三〇一〇万三六一〇円を、前記亡浄香の損害額五二三七万四三七三円から控除すると、二二二七万〇七六三円となる。

右を原告らが各二分の一の割合で相続したから、原告一人当たりでは、一一一三万五三八一円となる。

七  弁護士費用(請求原因4(二)(3)) 二〇〇万円

本件交通事故と相当因果関係のある弁護士費用は二〇〇万円と認めるのが相当である。

八  よって、原告らの請求は、原告利國公之は金一四二一万五三八一円及び弁護士費用を除く金一二二一万五三八一円に対する亡浄香の死亡の日の翌日である平成八年八月四日から、うち弁護士費用金二〇〇万円に対する訴状送達の日の翌日である平成一〇年一月九日から、原告利國裕子は金一一一三万五三八一円及びこれに対する亡浄香の死亡の日の翌日である平成八年八月四日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉波佳希)

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